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「布施君……今回ね、失恋して自棄になったりしてない?」
伺うように尋ねると、布施はプッと笑った。
「実るわけない恋愛だったから自棄にもならないよ。綺麗に失恋できて前進したくなっただけなんだ。
そしたら、そろそろ結婚したいなと思った」
「で、相手が私?」
裕子は自分を指しながら、信じられない、と眉を寄せた。
「ここでハッキリ伝えておくけど、嫁にしたいと思ったのは、ただの佐伯裕子じゃない。
プライドも何もかも捨てて俺の所にやって来た佐伯裕子だよ。
お前がああして来なかったら結婚しようとは思わなかった。
お前みたいな頑固で臆病な女が俺の言うこと全部聞いて、何の見返りもなく俺ところにやって来た。
それで決めたんだ。
そんなお前とならやって行けるよ」
強い口調でそう告げた布施に、裕子はどこか圧倒され、ゴクリと息を呑んだ。
そうだったんだ。
結婚をしようと思ったときに私が全てをかなぐり捨てて、自分のところにやってくるかどうか『賭け』に出たんだ。
本当に人生を賭けてのものだったんだ。
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