おわりとはじまり

8/12
前へ
/13ページ
次へ
「それがさっきの碓氷みたいなドSがMを好むわけないって発現につながるわけね? じゃ、あんたみたいな種族は何がお好みなのよ。」 「ちょーーっぴりSな子。立花タイプ。」 「……あ!なるほどね。わかった。」 私は碓氷の言わんとすることが分かり、満足して食事に再び手をつけ始めた。 「でもそれ、相当タチ悪くない?つまりは本当に嫌がる人間をいじめたいってことでしょ?」 「せいかーい! まぁでも、いじめた相手にもっともっとってされるとさ、こっちとしては萎えるわけよ。 本気で嫌がる事を普通の対応のなかで少しずつ小出しにすると、嫌がらせのレベルが上がっていくにつれてベースラインを見失うわけ。 もともとMじゃない人間からするとそれに気づく瞬間が苦痛でしょ。 嫌がらせに耐性が付いた自分との葛藤で歪む表情とか、たまんないよね!!」 そこまで興奮した様子で一気にまくしたてた碓氷は、目を輝かせている。 正直私は開いた口がふさがらなかった。 その様子を見て、碓氷が我に返り、まあこんなのはそれぞれの持論があるから、いいんだけどさと話をくくった。 「あんたってそこまで歪んでたのね…。」 「……。」 私たちは、白熱した討論の内容のなさに改めて気付き愕然。 お互いにお酒が入っているにも関わらず一瞬我に返ってしまった。 無言の中、私も食事をしながら次の話題を探す。 (普段感じないけど、碓氷、恋愛に対してはめちゃくちゃ肉食系なんだろうな…) 私がそんな考え事をした時、碓氷はまた真剣な表情で、私が折角逸らした話を蒸し返した。 「元彼かなり年下だったよね。」 碓氷は少しも笑っていなかった。優しい表情、けれども真剣な強いまなざし。 「……。まーね。4歳下。」 そこまで失恋話を聞きたいかと呆れつつ、私は諦めて答え始めた。 「あー…もしかして、浮気されちゃった?」 「…まーね。」 「そっ…か。まあ、落ちこむな。俺らの4歳下っていったら23だろ。遊びたい盛りじゃん。」 「…まーね。私、草食系男子は嫌いだから。」 自分の男の見る目のなさに、苦しい言い訳をする。 「他に女いたんだ?」 頷く私。空になったビールに目をやり、ジェスチャーだけで店員さんに同じものを頼む。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加