一章

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そんな私のアイデンティティは、呆気なく崩壊した。 ストーリーは突飛ではない。三十路の女が若い男と歳上の男の間で揺れ動く物語だ。 若い男も歳上の男も才能に溢れている。主人公の彼女も又有能で、オマケに美人だときている。 都合の良い設定…けれども知らず知らずに惹き込まれる。 そうして私も水曜日の零時を心待ちにしていた。 クリエーター名は〈カオル〉編集長はサイトの社長からアドレスを入手した。 『ムリだと思いますよ。僕らも散々連絡したんですよね…出版社の人にも何度も頼まれましたけど、みんなすっぽかされてそれきり連絡取れないみたいですよ』 意外な話だった。出版社やサイトが目を付けるのは当然だと思うのだが、毎週決まった時間に更新をする彼女が約束をすっぽかすと云う事がだ。 「加奈子!意地でも連絡付けて連載の約束取りつけろ」 〈カオル〉と連絡を取るのは大変だった。毎日の様にメールを入れた。更新の後には欠かさず感想も書き込んだ。 一通の丁寧なメールが返信されて来たのは一月が経った頃だった。 「編集長…谷さん!返事が来ました!」
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