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「おはよう悠希」
「お、おはよう」
「黒川君おはよう」
「あ、おう。おはよう、あ……ねみい」
教室にはクラスメートが揃っていた。スライド式のドアは開いている。春野と一緒に自分のクラスに入ると、次々と挨拶が飛び交う。
「なーお?やらかしてたな」
ニヤリと笑い軽く髪を掻き上げながらゆったりと近付く色男。廊下側、一番後ろの自席に腰を下ろす俺と恒例のハイタッチをした。スポーツ特待生の水野 蓮。コイツは同じバスケ部でスキルが半端ない超絶エース。しかもイケメン。存在自体がテクニカルファウルの領域。そんな水野を机に片肘をついて見上げる。
「助けろよ水野」
「ねーな」
「だな」
今日は風紀による抜き打ち検査があることを事前認知していたのか整髪料をつけていない。水野の長めの髪はサラサラ感満載だ。手招きする俺に身体を近づける水野の髪を触る。
……毛並み最高。
瞬間的にざわつく教室。「“山せん”もう来たのかな?」と思い教壇を見るも担任の山田先生はいない。
「相変わらずだね」
「なにがだ?」
「なんでも?」
大人しく撫でられながら水野が体重をかけて俺の膝に座った。筋肉がくそ重い。その筋肉寄越せと思いつつ眉をしかめる。
「もういいって!つか重い水野退け」
「もう飽きたの?酷い!アタシの事は遊びだったのね?」
「はあ?」
水野を押し退けつつ渾身の演技力ならびに意味不明なノリのイケメンを見て溜め息を吐く。うん、実に残念な感じだ。
よりざわつく教室に「?」となりながらも、スルーは可哀想だからノリに付き合うことにする。
「すまない今日は充分堪能した。また後日可愛がってやるからいい子で待ってろよ?(訳:整髪料付けてない時にまた触らせろ)……退けよ」
「奈央?サービスしすぎ」
「あ、すまん?」
誰かが「萌え!」と叫ぶ。留美さんと同種のノリに驚愕する。水野がニヤリと笑い立ち上がった。
「おはようみんな」
明日から中間考査だという事をド忘れしていた俺は自分に「ドンマイ」と呟く。特待生はテストの順位の上位をキープしなければ補習か留年だ。最悪の場合、退学。
……部活は当分お預けか。
「はあ……」
筋トレは欠かさないでおこうと、担任のずり落ちた眼鏡を眺めながら心に決めた。
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