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赤ん坊は泣き止み、おばあさんのほほを触って遊び始めました。
おばあさんは赤ん坊の頭を撫で、優しく微笑みました。
「なんだろうね。この子の笑顔を見ていたら、ビジネスなんてどうでも良くなって来たよ」
「この子が大きくなれば老後も安心じゃの。……そうだ。この子の名前を考えたんだが」
「桃から生まれたから桃太郎、なーんてやめてくださいよ。学校でいじめられますからね」
「そ、そりゃもちろんだとも。太郎……。そうだ。この子の名前は太郎にしよう」
こうして浦島家に新しい家族が増えましたとさ。めでたしめでたし。
「まあ、村の財宝を売りさばけば、それなりの暮らしは出来る」
おばあさんはそう言うと、拳を地面に叩きつけました。するとあら不思議。地面に、それはそれは大きな亀裂が入りました。おじいさんは土に埋まっていたものを見て眉を上げました。そこにはたくさんの金銀の装飾品が顔を出していました。
「これは驚いた。村の財宝じゃないか。たしか鬼が持っていたはずじゃが……。もしや、ばあさんは鬼じゃったのか!?」
「馬鹿なこと言うんじゃないよ。人聞き悪いわね。おととい鬼ヶ島に行って鬼から強奪してきただけだよ」
「鬼より恐ろしいのー」
おばあさんは家の前に出来た大穴に飛び込みました。
「村の者に気付かれないようにここに隠しておいたんだが……。おじいさん、作戦変更だよ。桃を皆に配ってきてちょうだい」
「村の財宝を取り戻したお祝いか。これでばあさんは村の英雄じゃな」
「違うよ。じいさんが村人を集めているうちに村の裏手から財宝を運んで町に売り飛ばすんだよ」
「鬼よりよっぽどたちが悪いのー」
こうして村人を集め、桃の解体ショーを披露したおじいさん。一晩にして巨額の富を手にした浦島家に、いささかの疑念を抱きつつも、二人に新しい子供が出来たことを心から喜ぶ村人達でした。めでたしめでたし。
大人になった太郎が行方不明になり、おじいさんおばあさんが死ぬまで戻って来なかったのはまた別のお話。
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