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その日は全くと言って良いほど、寝付けなかった。
久しぶりに…本当に、どのくらいの時間が経ったか分からない程、人間となんて話さなかったからだろう。あの忌々しい記憶が、頭にこびりついて、離れなかった。
体はいつにもまして疲れているのに、全く寝れなかった。
…次の日。
「あはは、来たよ~」
手紙に書かれた通りに、昨日と同じ朝に実に爽快な笑みを浮かべながら壁の所まで来たのは…昨日の馬鹿者。
昨日と同じ時間に同じ場所とは少し凄いと思ってしまった。
ちなみに私はまたあのでかい声で起こされては敵わないとすでに起きていたが。
というか一睡も出来なかった。
「来るな!」
そう大声で自分の寝室から叫ぶ。しかしそいつは、あははと笑ってそれを無視し、門を飛び越え庭まで来た。
悠々と、自分の庭に入り込んできたそいつの神経に、カッとなるが、…そうした所で無意味だろうと、諦める。
「…ふん。こんな城に何故来るのだ…?」
「え?何か言った?」
「…何でもない。」
「そっか~。
…ねえ、僕は城の中に入ってはいけないのかい?」
頼むよ~とのんきな口調でねだるが、それは無理な事だ。
「駄目だ。ここは私の城だ。
城の中なぞ絶対に許さん。」
庭までが限界だ。
そう言い放つと、そっか。と残念そうに俯くそいつ。
「…君はどうして城の中にずっと居続けるんだい?」
悲しそうな表情から一変、落ち着いた顔でそう尋ねてきた。
「…ここは私の城だ。
私だけのものだ。そうだろう?」
そいつは私から目を離さない。
こいつの目が、恐いと思った。
何もかも、その透き通った目から、見透かされそうで。…じっとりと嫌な汗が背中を伝う。
「そうだねぇ。此処は君が造った城。君だけのもの。
…でも、ちょっと外に出てみないか?」
「…何故だ。」
…何だこいつは?
私に、何を求めている?
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