始まり

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真っ白な城。 あまりに淡泊で冷淡で、空虚な城。 それが最初、この城を見た人のイメージだろう。 “ド田舎”なこの村に似合わないくらい大きく、美しく。 深い深い森の中に建っているその城は、“ド田舎”な村で最も、そして異様に目立っていた。 そんな城の、無駄に大きな窓からうっすらと朝日が差し込んだ。 「…………ん。 ん………」 その光が眩しくて、城に住んでいるたった独りの住民は、眩しい光から身体を背けるように、ごろりと寝返りをうった。 …………おーい、と窓の外から声が聞こえた。 ………ん゛…?誰だ、朝から………。 寝ぼけていて頭は上手く働かない。 …まぁ、私に関係、ないか…。 再びうつらうつらとしたところで、また同じ声が聞こえた。 しかも、先ほどより声量が大きく、正直五月蠅い。 「……」 むくり、と住民は不機嫌そうに起きあがった。 なんだ一体…。 朝から騒がしい。 「………うるさいな…」 寝起きだからか、掠れた声だった。 まあ、別に怒ってはいないのだが。 「…いちいち反応する私が悪いのか。」 私の独り言は虚空に消えた。 この城には私以外住んでいる者はいない。 寂しくなんてない。むしろ、自分の好きな時間に好きな事が出来るから良い。 寝たいときに寝て、一日中ぼーっとして、自分の好きなように何もかもできるから。 ぼーっとそんな事を思いながら、枕に顔を埋めると。自分のにおいが枕からし、…少し幸せな気持ちになった。 寝室は好きだ。…自分のにおいがする。 ……。 外からチュンチュンと、鳥のさえずりが聞こえた。 ……朝、なのか……はぁ……起きるかどうするか…。 どんなに寝ても、身体は怠い。重い。 普段なら、太陽が真上に昇るまで寝ている自分にとって、朝に目が覚めるのは非常に辛い。眠い。 そんな下らない事を考えながらゆったりとしていると、もう一度、また、外からおーい、と声が聞こえた。 …………何度、 一体、誰を呼んでいるのだ。 私はゆっくりとしたいのに。こんな事なら城を防音にしておけば良かった。 何分経っても、何度も何度も、おーいおーいと五月蠅く叫ぶ馬鹿者がいると。 気になって仕方がないし、五月蠅い。 私は独りだから、誰も知り合いも友達も何もない。 だからこそなのか、「誰かを呼ぶ声」が苦手で嫌いだった。 私に声をかけてくれる者などいない。
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