女神の口

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「み、三神は来るな…!見ない方がいい!」 鳥澤が私に気づく前に、「それ」は私の視界に飛び込んだ。 お湯の張られた浴槽に、ぷかぷか浮かぶ背中。 アップにした髪が、特徴的だった。 「風間…さん?」 私を生意気だと言っていた女性。 生きて帰れない、と毒ずいた。 しかし、今や彼女自身が、目を覆いたくなるような姿に。 「…警察が来るまで、このままにしておくべきなんでしょうが、あんまり可哀想だ。…引き揚げますよ?」 管理人は冷静だ。 私も鳥澤も、反対はしない。 私達は彼女を水からあげ、管理人が持ってきた毛布の上に乗せた。 「お風呂で、服を着たまま溺れるなんて、不自然だわ。…それに、首を見て。」 首筋が、わずかだが紫色に変色していた。 「…絞殺か?」 鳥澤も気がついたようだ。 「絞め殺した後、水に沈めたのか。何のために?」 「分からない…でも、ゲームは始まってしまったようね。」 私は管理人をちらりと見た。風間の遺体を、毛布にくるんでいる。 取り乱す様子はない。 「管理人さん、貴方、本当にカードの事を知らないの?」 しつこいとは思ったが、もう一度聞いた。 …答えは、同じだった。
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