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蝶だ。
其の美麗な羽は、纏った鱗粉で何人もの男を虜にし、そして、翻弄して来たのだろう。
恐らく私の刃では、幾ら振り回しても、蝶に触れる事すら出来ないだろう。
暗殺訓練や、技術が意味を成さない程に、
亦、宿命に拘束された私とは異なり、自由で奔放、尚且つ気丈で生を愉しみ、謳歌して居る様にも感じられる、
私は、自らの毒で、蝶を殺してみたいと思った。
私が築いた屍の城を、美しく飾るのに相応しい、
得て初めて、財産と呼べる宝物にしたいが、今直ぐ殺すには、何処か儚過ぎる。
其れに、
羽に散りばめられた宝石や、夜空の星達を傷付けてしまっては、財産の価値を損ねてしまう様な気がしたのだ…。
蝶の羽を、
蝶を傷付けたく無い、
傷付けずに、
優しく殺そう…。
淑女にソッと接吻するかの如く、私は、ソロリソロリと刃を蝶に近付ける。
少しずつ、刃と蝶の距離が縮まる毎に、此迄に感じた事の無い胸の高揚と、焦燥感を覚えた。
刃を握る手が僅かに震える。
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