10人が本棚に入れています
本棚に追加
刃が蝶の喉元に到達した。
ほんの僅か触れるだけで、蝶は永眠りに就く、私の城で生涯、大切に、愛でられる事に成る。
然し疑問だ。
私の刃が喉元に在ると云うのに、蝶は、何故逃げ無い?
其の可憐な羽で宙を舞えば、私の刃等、いとも簡単に交わせる筈だろう?
私は、国が兵を挙げて、抹殺に掛かる程恐ろしい毒の暗殺者、
城の一部と化して来た者達ですら、私の存在に震撼して来たのと云うのに、
「此の城の主、蠍の王。
貴方の元で、私は眠りたいのです」
蝶は羽一つ動かさず、私に眠りたいと言った。
私に殺されたいと懇願して来たのだ。
生まれて初めてだ、私に殺して欲しいと依頼する者も、其の為に死を享受する者も、私以上に恵まれた境遇に生きると言うのに、
何故、死にたがるのか、私は殺す前に、其れが知りたく成った。
「殺す前に、理由を訊こう、
美しき舞姫よ…」
僅かに刃を、喉元から離した。
最初のコメントを投稿しよう!