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「わー、美味しそう」
昼休み、学校の教室にて。
俺はいつもの友達と集まってお弁当を食べていた。
そしてお弁当を食べ終わったところで俺は今朝、作ってきたチーズケーキを皆にご馳走していた。
そして皆の第一声がそれだった。
「それにしたって最近、よくお菓子作ってくるよな裕太」
俺の親友である藍原柾木(アイハラマサキ)はチーズケーキに目をやりながら何ともなしに聞いてくる。
「まぁ、な。最近お菓子作りにハマっちゃってさ。前に天使がチーズケーキが好きって聞いたから作ってきたんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
天使の親友である本田美優(ホンダミユ)はニヤニヤしながら俺を見た。
どこか、心を見透かされている気がして、気まずさで俺の方からさり気なく視線を天使に向ける。
天使ーー天使椎名(アマツカシイナ)。名前の通り、天使のような可愛さと優しさを合わせ持つ少女で、そして俺の好きな人だ。
中学三年生の時から想いを寄せ、そして高校一年にして未だに俺の恋心は彼女一色に染められている。
「ホントにありがとう、裕太君。私のためにわざわざ作ってきてくれて」
鈴を鳴らしたような声音で、天使はまさに天使のような笑顔を俺に振りまいた。
この笑顔のために俺はお菓子作りを始めたと言っても過言ではない。苦労を報ってくれる最高で最上級の笑顔だ。
しかしそれと同時に俺は改めて思う。
やっぱり天使は可愛いし優しい。それ故に、俺みたいな奴と天使が結ばれる訳ないな、と。
俺は思うのだった。しかし思うだけでこの俺の想いを諦めるという考えは今の俺にはなかった。
と、言うか。
諦める訳にはいかなかった。
諦めれば、俺はーー死ぬのだ。
いや、正確には一年以内に天使と付き合うことができなければ、だ。
いやいや。何を言ってるんだと、寝言は寝てから言えよ、と思うかもしれないがこれは寝言でも虚言でもない。
かと言って、本当に死ぬのかと問われれば俺はハッキリと言い切ることは出来ないだろう。
前例を知らないが故に本当に俺が死ぬかどうかなんて分からないのだ。
分からないが故に怖いのだが。
何故、俺がこんなことになってしまったのか。俺は改めて一ヶ月前の出来事を遡ることにした。
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