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「えっ、そうなのっ?てゆうか願い事できる範囲が狭過ぎるだろ……」
「まぁ、主様が今の願いを取り消すなら別に止めはしませんが」
「好きな人と付き合うというのでギリギリだと、あまり現実味のない願い事は止めた方がいいのか」
しかし願うなら許容範囲ギリギリの願い事を叶えてもらいたい。
これは貪欲と言うよりもそうしないと勿体無いという貧乏性からきた思いである。
折角、タダで叶えてもらえるのだから遠慮なく得られるものは最大限に得たい。
まぁ、タダほど高いものもないのだが、エリーゼが俺に何か見返りを求めてくると言うのは考えにくい(そう思いたい)。
「じゃあ、願い事は変更しないよ。さっきのでお願いする」
「そうですか。ホントにいいのですね」
「ああ、いいよ」
念を押すようにして言うエリーゼに対し俺は頷く。
「では今から魔法をかけるのでジッとしていてください」
「あ、ああ」
魔法と言われてつい身構える俺だったが、エリーゼを見てみれば両手を前に突き出しているだけだった。
どちらかと言うと念力のような雰囲気だったが、どちらでも良かったのでとくに気にもとめなかった。
ほんの数秒、部屋に静寂が流れてくるが、すぐにエリーゼの声で破られる。
「はい、終わりました」
「えっ?」
拍子抜けするほどいつもと変わらず何も感じない。ホントに魔法なんてかけたのだろうか?
声に出して言わずとも俺の思いは分かったようで、エリーゼは「魔法をかけましたよ」と言った。
そして続けて、
「願い事、叶うといいですね」
「……えっ?」
エリーゼの発言に疑問を感じた俺は問い掛ける。
「だから、願い事叶うといいですね」
もう一度同じ発言を繰り返すエリーゼ。まるで話が噛み合っていない状況に、歯痒い思いよりも先に嫌な予感が過ぎる。
『上手い話には裏がある』
よく、詐欺者に引っ掛からないためのキャッチコピーとして使われる言葉だが、俺の頭の中でそんな言葉が過ぎった。
そして俺は不安げに瞳を揺らしながらエリーゼを見てみると、彼女の表情は小悪魔のような笑みをしていた。
そして、都合のいい俺の幻想に亀裂が入る音が聞こえてきた。
そしてその亀裂はエリーゼの最後の言葉によって破砕音へと変わる。
「たった今、私がかけた魔法は主様が願ったことを主様自身が叶えないと死んでしまうというものですーー頑張って下さいね」
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