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彼女の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
そして、赤く腫れた頬、口からは細く血が流れていた。
「はっ、勝手に死ねよ」
男は引きつった笑顔のままそう言ったが、足は明らかに震えていた。
所詮小心者なのだ。
「アンタを殺してっ!!」
「ひっ、や、やめろっ!!!!」
狭いキッチンを二人は暴れながら追いけっこ。
本人達は真剣なのだが、妙に滑稽に見えて俺は膝を抱え乾いた笑いを浮かべていた。
ガタッ……ダンッ!
「ひ、ひっ、……おいっ、ひぃ、ぁ……!!」
大きな音が聞こえたと思ったら途端に静かになり、男の悲鳴にも似た叫び声に俺はまた視線をふすまの向こう側に向けた。
彼女の体は仰向けに横たわり、小さく弛緩する。
男はしばらく座り込んだまま彼女を見ていたが、カタンとテーブルからコップの落ちる音に我に返ると、何か小さく呻きながら這うようにして家から出ていった。
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