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それから色々言われて。
明日からこうだ、明後日からはこうだと言われて。
「うわぁ…見て見て、綺麗!」
「外人かな?ハーフかな?」
「えー、でも目つき悪ーい。不良じゃないのー?」
廊下にいた俺の近くで聞こえたから、恐らく俺じゃないだろうけど。
俺以外にもハーフがいたんだ、と少し驚いた。
迎えた放課後。
今日は仕事入ってたっけ…
なんて、俺の脳みそはいつでも仕事仕事仕事。
テレビ出演は絶対にしないし、雑誌インタビューの時も名前を伏せて顔写真を載せないという徹底ぶりのおかげか、俺の存在はあまり一般人には知られていない。
ピアノ界ではまた話は別になってくるが、一般人に知られてないことは凄く助かる。
人だかりができると面倒だから。
勝手に悪いとは思ったが、仕事が入っていないことを思い出した俺は入学説明会の時に聞いた『第一音楽室』へ。
広々とした空間に置かれた、一台の黒光りするグランドピアノ。
うちにあるのよりは少し劣るけど、気分転換に引くだけならいい。
椅子に座って、白と黒のコントラストの上に傷一つない指を置く。
………春、桜。
ヴィヴァルディの「四季」より、協奏曲第1番 ホ長調、「春」……が、いいか。
春を迎えた喜びを、小鳥が歌って祝う。
小川のせせらぎ、風が優しく空を舞う。
途中で雷に襲われてしまうが、嵐が去ったあと、小鳥はまた素晴らしい声で歌う。
その情景が浮かんできて、弾く曲を決定付させた。
………俺に楽譜は、必要ない。
そっと、弾き出す。
軽やかなリズムに音を乗せる。
他にヴァイオリンやチェロとか欲しいところだ。
だけど、難易度はあがるがそれをピアノで補えば必要なくなる。
ピアノだけで、俺は魅せるんだ。
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