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――――……
その夜、寝室のベッドで上体だけ起こし本を読んでいる楓に、
「今夜は何を読んでいるの?」
と円香はドレッサーの前で髪を梳かしながら尋ねた。
「ん?今夜は古今和歌集」
本から目を離してそう答えた楓に、円香は「古今和歌集!」と声を上げたあと、クスクス笑った。
「亜美が聞いたらきっと目を丸くして『そんな本を趣味で読むなんて、さすが文学の世界の人』って言いそう」
そう言って手にしていたブラシを置いてベッドの中に入ると、楓は本をパタンと閉じてチェストの上にそっと置いた。
「最近、亜美が僕のことを『文学の世界の人』って言うんだよ。どうしたんだろう」
「でも、ピッタリの表現だわ。実際、楓くんって万葉集とか源氏物語とか好きよね?」
「そうだね、和歌が好きなんだ。
とても美しいなと思うし」
そう言って柔らかく微笑んだ楓の姿に『やっぱり文学の世界の人』と円香は笑みを浮かべた。
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