【旋 律】後編 第十三章

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  「そんな楓くんのオススメの和歌とかある?聞きたいな」 少し身を乗り出して尋ねた円香に、楓は「……そうだね」と上目遣いで腕を組んだ。 「それじゃあ、僕の気持ちを藤原義孝(ふじわらのよしたか)の歌を借りて伝えるよ」 「どんな歌なの?」 「“君がため、惜しからざりし命さへ、長くもがなと、思ひけるかな”」 見詰めながらそう告げた楓に、円香は弱ったように眉を寄せた。 「どう言う意味なの?」 「“もし、あなたが僕のことを想ってくれるなら、この命だって惜しくはないと思っていた。でも、いざあなたが本当に僕のことを想ってくれると、この幸せの中で少しでも永く生きていたい、そう思うようになったんだ” ちょっと僕なりの脚色を加えたかもしれないけど……そういう歌だよ」 あなたと想いを結べるならば死んでも構わないと思っていた。 だけどいざ想いを結んでしまったら、命が惜しくて仕方がない。 そんな恋の歌に、円香は胸を熱くさせた。 「素敵ね」  
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