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「そんな楓くんのオススメの和歌とかある?聞きたいな」
少し身を乗り出して尋ねた円香に、楓は「……そうだね」と上目遣いで腕を組んだ。
「それじゃあ、僕の気持ちを藤原義孝(ふじわらのよしたか)の歌を借りて伝えるよ」
「どんな歌なの?」
「“君がため、惜しからざりし命さへ、長くもがなと、思ひけるかな”」
見詰めながらそう告げた楓に、円香は弱ったように眉を寄せた。
「どう言う意味なの?」
「“もし、あなたが僕のことを想ってくれるなら、この命だって惜しくはないと思っていた。でも、いざあなたが本当に僕のことを想ってくれると、この幸せの中で少しでも永く生きていたい、そう思うようになったんだ”
ちょっと僕なりの脚色を加えたかもしれないけど……そういう歌だよ」
あなたと想いを結べるならば死んでも構わないと思っていた。
だけどいざ想いを結んでしまったら、命が惜しくて仕方がない。
そんな恋の歌に、円香は胸を熱くさせた。
「素敵ね」
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