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「この作者、藤原義孝という人は美青年で真面目で、地位もある人だったんだ」
「そうなんだ、楓くんみたいな人だったのね」
感心の息をつく円香に、「それは光栄です」楓は楽しそうに微笑んだ。
「……だけど彼は21歳の若さで、流行病で亡くなったんだ」
目を伏せながらそう告げた楓に、円香は言葉を詰まらせた。
「そんな彼の『あなたと一緒にいられるこの幸せの中、少しでも永く生きていたい』というこの和歌は、より切なく美しいよね」
儚くも美しい藤原義孝の歌は、どこか楓とイメージが重なり、円香は急に不安を感じて思わず楓の腕にギュッとしがみついた。
「――なんだか怖くなっちゃった。あなたは重い病気にかかったりしないでね」
俯きながら低い声で呟いた円香に、楓はアハハと笑った。
「僕としては例え若くても、円香より先に死ねるほうが嬉しいなぁ」
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