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エレベーターの中にて男と遊莉は会話に興じていた そして、10年以上も前の事を思い出していた ―――君の苦しみを僕は解ってあげられなかった 「春莉の目撃が多発してるだと?」 「ええ」 朝海は頭を掻いた 「確か10年前くらいにそんなことあっただろう?」 「ええ、美咲さんの時空転移による瞬間移動のあれですね」 「今回は違うというのか?」 「ええ、しかし美咲さんは5年前に死亡していますし、今回は帯刀しているそうですよ」 「…刀ねぇ」 確かに結月春莉は日本刀を武器にしていた 朝海は興味をもって一度聞いてみたことがあった 理由は鋭いし、服に仕込みやすいし、第一美しく格好いい そのあとは延々と日本刀の造形美について語ってもらった そんな話はさておき 「それは何処かに春莉の顔の鬼がいるということか?」 「ええ、ですがこの世界はもう常識などありませんよ」 「まさか目覚めたのか!」 「なら、まず私たちに何か連絡を寄越すと思いませんか?」 「そうだな」 朝海は煙草を一つくわえた 「じゃあ鬼か」 「ですが、彼女が人を襲ったという報告はありません」 「じゃあ逆に鬼に襲われている誰かを助けたという報告は?」 「多数ありますね」 朝海は紫煙を吐いた 「それは彼女だよ」 朝海はそう言い切った エレベーターが地下についたと同時に彼の意識は現実に引き戻された 「うわっ!寒っ!」 「そうだな」 エレベーターが開いた途端猛烈な寒気が二人を襲った エレベーターを降りた先には巨大な装置があった 朝海はコートを着ているのでそうでもなかったが、遊莉の方は動きやすさを優先した軽装だったので震えながら歩いていた 「久しぶりだね。春莉」 「朝海さん?」 巨体な機械を見てそう呟いた朝海を遊莉は不思議そうな目で見た 「遊莉、解凍作業に入るよ」 「オッケーッス朝海さん」 朝海は巨大な装置の中枢に座する巨大な円筒を見ながらふと随分と前の事を思い出した
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