選択肢

3/25
507人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「ほら、荷物持ってあげる」 「いいって、今日は余裕だし!」 そう言うのに「いいから」と恭は詩織のカバンを取り上げて歩き出す。 見えるのは恭の背中。 もっと、ゆっくり着替えればよかった。 そしたら――、 「きゃっ!」 考え事をしてるとろくなことが無い。 小さな段差に躓いて――、 「大丈夫? シオ」 強く掴まれた腕、コツンと額にぶつかる恭の胸。 心臓が―― 「だ、大丈夫! ちょっと考え事って言うかっ、わっ!!」 慌てて離れようとするから、今度は後ろにつんのめって―― 身体ごと引き寄せられて、ボスッとまた恭の胸に納まってしまう。 「シオ……」 振ってくるのは呆れるような恭の声。 だから、ゆっくりと顔を上げて「……ごめん」と言えば、その顔には呆れながらも笑みが見えた。 「本当に目の離せないお姫様だね。ほら、手」 差し出された手にもドキドキする。 ゆっくりその手に自分の手を重ねれば、さほど強くない力で握られて……。 指の先までじんじんする。 一緒に住んでて、こんなのは異常だと分かってる。 でも、どうすることも出来なくて詩織は俯いて、手を引かれるまま校舎に向かって歩いた。 どうか、このドキドキが指先から恭に伝わりませんように。 そう願いながら。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!