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「ほら、荷物持ってあげる」
「いいって、今日は余裕だし!」
そう言うのに「いいから」と恭は詩織のカバンを取り上げて歩き出す。
見えるのは恭の背中。
もっと、ゆっくり着替えればよかった。
そしたら――、
「きゃっ!」
考え事をしてるとろくなことが無い。
小さな段差に躓いて――、
「大丈夫? シオ」
強く掴まれた腕、コツンと額にぶつかる恭の胸。
心臓が――
「だ、大丈夫! ちょっと考え事って言うかっ、わっ!!」
慌てて離れようとするから、今度は後ろにつんのめって――
身体ごと引き寄せられて、ボスッとまた恭の胸に納まってしまう。
「シオ……」
振ってくるのは呆れるような恭の声。
だから、ゆっくりと顔を上げて「……ごめん」と言えば、その顔には呆れながらも笑みが見えた。
「本当に目の離せないお姫様だね。ほら、手」
差し出された手にもドキドキする。
ゆっくりその手に自分の手を重ねれば、さほど強くない力で握られて……。
指の先までじんじんする。
一緒に住んでて、こんなのは異常だと分かってる。
でも、どうすることも出来なくて詩織は俯いて、手を引かれるまま校舎に向かって歩いた。
どうか、このドキドキが指先から恭に伝わりませんように。
そう願いながら。
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