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「話はそれだけですか?」
頭を思考モードに切り替えようとしていた僕に、しかし鈴山さんはまるで待ったをかけるように声を発した。
僕は半ば反射的に声を発した彼女の方へと視線を走らせた。
だが、鈴山さんの視点は相変わらず僕ではなく病室に設置されている小さな窓ガラスに向けられている。
「謝罪の件でしたら、私はもうなんとも思っていませんから気にしないでください」
「……それは遠回しに僕に帰れと言ってるのか?」
「…そこまで分かっているんだったら、さっさと帰ってください」
私も暇じゃないんですから……と、続けざまに鈴山さんは言った。
暇じゃないもなにも、今の君は寝ていなければいけないのではないだろうか?
それに今の鈴山さんの言い方だと、何だかまるで僕が単に暇だったからここに来たみたいになっているのでは?
そんなことを思いながら僕は後頭部を軽く掻き毟りながら、いつもと変わらぬ呑気な口調を意識して返答する。
「確かに本来であれば僕はここで退室すべきなんだろうけど、さっきも言わなかった?僕はまだ君に用があるんだ」
「…………言ってないですよ、そんなこと……」
「そうか。じゃあ今言った。僕は君に他にも用があるんだ」
「……身勝手ですね、先輩は…」
鈴山さんは表情さえ見せはしないが、それでも明らかに今の彼女の心境が不満そのものだというのは声色からして明白だ。
きっと景色を見ている今だって、この前のように頬をムスッと膨らませて不満げな表情を浮かべているに違いない。
そんな風に彼女の姿を瞳に映しながら、僕は近くにあった小さなパイプ椅子に浅く腰掛ける。
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