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ギシリ…と、パイプ椅子が軋む音が重く低く僕と鈴山さんがいる病室に響きわたる。
鈴山 山葵。
一見すれば周りの連中と何一つ変わらない彼女は、しかし他とは完璧に異なった存在だ。
僕は知っている。
彼女がどういう存在で、どういう生き方をしてきたのかを。
「この前みたいに時間を潰すのもアレだし、早速本題に入ろう」
「……本題ということは、最初から謝罪なんて二の次ってことだったんですね」
「勘違いするな。あくまで僕の最優先事項は鈴山さんへの謝罪だけだった」
僕は軽く咳払いした後、周りへと軽く視線を泳がせる。
正しくは、ここら一帯に気を張り巡らせる。
ゾンビ、即ち死体である僕は周りの生気を察知することに長けている。
そういうわけで、僕は周りの気配を観察してみる。
辺りには誰もいない。
よかった、と素直に僕は思う。
これで周りに気を遣うことなく、それこそ心置きなく鈴山さんと話が出来るというものである。
「僕の力についてキチンと教えよう。その代わり、君も僕に自分自身のことについて詳しく教えてはくれないか?」
僕の要求に、鈴山さんはビクッ!と己の体を震わせる。
予想通りの反応に思わず現実かどうかを疑ってしまう僕だが、しかしこればっかりは現実で、それでいて真実だ。
「……脅迫じみた要求ですね…」
そう言い、彼女はゆっくりとこちらに視線を動かす。
改めて見た彼女の表情は、やはりどこか寂しげで、なにかに絶望しているような……そんな表情であった。
その理由も知っているというのだから、僕という男は何とも酷い奴だ。
だが、しかし。
大体の事情を知っているとしても、それでも僕は彼女に確かめたい。
彼女自身の口から聞きたい。
確認作業のような自分の行いに、反吐がでるが、それでも僕は確かめずにはいられない。
やがて、僕は彼女のキチンとした返答も待たずに、自分の口を静かに開く。
「君は………………」
そして、少しの間をもって……僕は再び口を開く。
「君は…死にかけているんだろう?」
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