第1話

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雨が、降っている。 ザーッというほどの強い雨ではない。ポツリ、ポツリといった、小降りの雨だ。 僕は、雨の日の放課後は必ず図書室に行くと決めている。何故、と訊かれても、もはや習慣となっているものだから、理由なんて答えようがない。 ただ、雨の日には何故か図書室に行きたくなるのだ。 今日も、一人暗い廊下を図書室に向かい歩く。秋も終盤に差し掛かったこの季節。空気は冷たく、どこか物悲しさを感じる。 図書室前に着き、扉を開けると、独特の匂いが鼻をつく。 僕は、この匂いが好きだ。古い本の、温かみのある匂い。新しい本の、爽やかな匂い。そんな匂いが入り混じる図書室という空間が、僕は好きだ。 中を見通してみると、僕以外に人はいないようで、窓の外で雨の降る音だけが静かに響いていた。 まあ、人がいないのはいつものこと。特に珍しくもない。 僕は、人文のコーナーへと足を進めると、本棚の端からゆっくりと背表紙を眺め始める。今日はどの本を読もうか。 ゆっくり吟味をしていると、不意にカラカラと扉の開く音が聞こえた。
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