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珍しいな、図書室に人が来るなんて。そう思いながらも、僕は視線を逸らすことなく、本選びを続けた。
足音が、だんだんとこちらに近づいてくる。どうやら同じコーナーに用があるようだ。やがて、人文コーナーの入口あたりで足音が止まった。
ちょっと気になってしまって、僕は視線を足音の方向へと向けた。
そこには、一人の女子生徒の姿があった。
首元の辺りで毛先がカールしている、茶色の髪。赤縁の眼鏡をかけ、ブレザーの代わりにオレンジのカーディガンを羽織っていた。ネクタイの色が僕と違うので、後輩のようだ。
「…………」
女子生徒は、何も言わず、ただこちらを見つめていた。
「……何か、用?」
何も言わないので、仕方なくこちらから声を掛けると、女子生徒は一瞬びくっと体を震わせた。ちょっと驚かせてしまったようだ。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですが……」
女子生徒は、小さな声でそう言った。俺に聞きたいこと?
「何かな」
続きを促すと、女子生徒はひとつ深呼吸をして、口を開いた。
「先輩、この間夏目漱石の本、借りてましたよね……?」
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