第1話

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話を聞いてみると、女子生徒――神原夏姫(かんばらなつき)さんは、よくこの図書室に来ているようで、この間借りようとした夏目漱石の「こゝろ」が、僕に借りられてしまったので、返却日を待っていたのだそうだ。 「楽しみにしていたので、よかったです」 読書スペースとして設けられたテーブルに、僕と対面する形で座る夏姫さんは、大層嬉しそうに『こゝろ』を胸元に抱抱きかかえた。 「図書室にはよく来るの?」 僕が尋ねると、夏姫さんは「はい」と小さく頷き答えた。 「週に三、四回は来ます。先輩のことも、よくお見かけしていましたよ」 そうだったのか。僕は全然気がつかなかった。 「まあ、先輩はたいてい読書に夢中になっていて、私がいることに気づいていなかったみたいですけど」 そう言って、夏姫さんはふふっと微笑んだ。なんだか、とても優しい笑顔だな。 「先輩、本はどれくらい読むんですか?」 聞かれ、俺は天井を仰ぎ考えた。 「そうだなぁ……。だいたい、週二、三冊くらいかな。土日なんかも結構読むし」 俺の返事を聞いて、夏姫さんは「へぇー」と感心したように声を漏らした。 「じゃあ、先輩、ちょっとお願いがあるんです」 夏姫さんは、身を乗り出してそう告げた。 「何?」 尋ねると、夏姫さんはニコッと僕に微笑んだ。 「今日から、私と一緒に……本、読んでくれませんか?」
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