第1話

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「しかし無事に就活が終わって良かったな」 「本当ね。お母さん決まらなかったらどうしようかって思っていたわ」 「ま、一応おめでとう」 夕食の時、家族からお祝いの言葉をもらった。 大学4年の春、俺は何とか無事に就職活動を終え無事に内定をもらった。 大学での専攻は食品化学についてだったため、自然と食品業界に行くものだと思い就職活動を行っていた。 そして無事にとある大手食品メーカーに無事内定を貰った。 VR世界での活動と就職活動との両立は大変ではあったが、それでも将来の為と頑張ったかいがあった。 食卓にはお祝いの料理が所狭しと並んでいて、俺の鉱物の揚げ春巻きと豚汁もある。 しかし何故だろう、生魚が食べられない俺の目の前に刺身と寿司がおいてあるのは……うん、他の料理はこじつけで、自分の食べたいものを母親は並べたようだ。 だがそれだけでないのは間違いなく祝ってくれる気持ちがあるからだろう。 「本当に決まってよかったよ。正直人生決めるし、40年働く企業選ぶなんて悩むもんね」 人生で一生の事を決める就職活動。 ここでの選択で人生の半分が決まるのだから、何が自分にとって正解か不正解か、実に悩みどころだった。 「でも決まったんだからいいじゃん。俺は来年就活だからどうしようか悩むよ」 「そうよね。来年もこんな気持ちになるなんて、お母さん今から心配だわ」 「兄の次は弟か。ま、まだ1年あるんだし今から何がやりたいか考えるんだな。大学で習った以外の所でも就職は出来るんだし、悔いのないようにな」 そう言ってビールを一気に飲み干す父親。 父の言葉の所々は厳しいようで優しい、温かみのある言葉。 本当に家族の事、将来の事を心配しているんだということがこの歳になってようやく気付いた。 「まあ、今日はお祝いだからな。たくさん食べてしっかり体力つけろよ。仕事は体が資本だからな」 「お父さんは食べすぎです」 「はっはっはっは。これは手厳しい」 母が言うと俺と弟の視線が父親のポッコリと出っ張ったお腹に集中する。 完全なビール腹なのだが……今日は言わないでおこう。 最近の俺への気遣いは完全になくなり、本当の意味での家庭に戻った我が家の食卓。 何だが暖かい気持ちになりながら、俺は好物の揚げ春巻きへと箸を伸ばした。
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