第1話

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夕食も終わり風呂に入り、歯も磨いて寝る準備は万端。 後は寝るだけで一日が終わる。 「じゃあ、俺そろそろ寝るわ」 リビングでホログラムのテレビを見ていた家族に向かって就寝の挨拶をするために向かう。 「あら、もう寝るの?今日もVRに行くんでしょう?あんまりやりすぎないようにね」 「分かってるよ。でも仕事し始めたらあんまり出来なくなるだろうから、今のうちになっておかないと。それに10時に待ち合わせしてるしさ」 時計が指しているのは既に9時半の回っている。 「2人に迷惑かけなようにね」 「迷惑かけられているのはこっちなんだけどね。じゃあ、おやすみ」 「「「おやすみ」」」 家族は俺が誰とVRの世界を楽しんでいるのか、言わずとも分かっている。 何せ小・中・高・大とずっと一緒だし、何回もお互いの家々を行き来しているんだから当然だ。 部屋に戻ってベッドに潜り込んでいく。 VRがない時はメガネを外して就寝だったが、今は違う。 メガネをかけたままゆっくりと目を閉じながら、目の前に浮かんだウィンドウの項目を押す。 VR世界 STARTの項目を。 よく魔法世界と言えば中世ヨーロッパ時代を思い浮かべろ、じゃなかったらそんな感じの街並みだ、そう言われた。 確かに今まで見てきた小説や動画、ゲームではそんな風に描かれていた。 しかし今目の前に映っている世界は少し違う。 石造りの外壁や街路地などはそのままだが、地上100や200メートルでは済まないような塔はあるし、電気の代わりに”魔力”を使った街灯。 水路は街中に引かれているし、街の周囲には天に向かってそびえる高い城壁。 空には空挺が飛び交い、魔法の箒に乗った郵便配達員までいる。 そして何より違うのは街の中央に位置する城の城門、その上に設置されたディスプレイ。 映し出されるのは現実の世界の企業・製品のコマーシャル。 現実を忘れようとしてVR世界を楽しんでいる人にとっては本当に嫌気が指すだろう。 運営の資金源と現実での広告利用、それが上手く折り合いがついているんだろうと一定の理解を示せる俺はまだ何とか我慢できる。 だって俺の就職先もコマーシャル出しちゃっているしさ……ははっ。 あいつ等との集合先はいつもの銅像の前。 なんでも数百年前に世界を魔王から救った勇者(設定)らしい。
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