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私はティーカップを口から離し、黒いコートに身を包むその女性を見上げ目を見開く。
なっ、なに?この人…
ぽかんと開けた口を閉じ眉間を寄せる。
「離婚前の示談なら100万から150万。離婚原因の裁判となれば300万から1000万…」
「…あの、どなたですか?」
丸いテーブルを挟み、真正面に立つ女性をしげしげと見つめる。
正体を隠すかの様に深くかぶったカシミア製の帽子からは、筋の通った鼻と真っ赤なラインを引いた唇だけが怪しげに覗いている。
「不倫の慰謝料の相場は、肉体関係の回数、相手の夫婦が離婚したかの状況で決定される…」
まるで、活字を読み上げるような感情の抜けた平坦な声。
…不倫?慰謝料?
彼女が醸し出す不気味さは、得体の知れない威圧感を作り出している。
「慰謝料額は、あなたの経済状況は全く考慮されません…」
「一体、何なんですか?!誰なんですか!」
恐怖心に縛られていく感覚。
咄嗟に立ち上がる私。その勢いで、ウォールナットのお洒落な椅子がガタッと大きな音を立てた。
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