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「――オ、シオ」
聞きなれた甘い声。
僅かに揺れるスプリングに誰かがベッドに座ったことがわかる。
それが誰か、なんて――。
「……恭?」
目を閉じたままそう聞き返すとクスリと笑う恭の声。
「髪を乾かさないで寝ると大変なことになるよ?」
そう言われて目をこすりながら体を起こした。
「夕食いらないって聞いたけど、体調でも悪い?」
「――あ、ううん、そんなんじゃ」
慌ててそう返し恭に焦点をあわせれば心配そうに覗き込む恭の顔が見える。
「食べ過ぎただけ、だから」
そう言うと恭はほんの少し眉をひそめた。
「あれからすぐに帰ったよね?」
「あ、うん」
「先生と、食べたの?」
ほんの少し低くなる恭の声。
それに気づいたけれど、嘘を付かなきゃいけない理由も、付くべき嘘も、嘘を言う余裕もなくて、詩織はただ頷いた。
すると「そう」とだけ帰ってくる恭の声。
だから余計でも気になって――。
「恭は知ってたの? 宮城先生が――」
桜学園の理事長の息子だってこと。
それともこれは公然の秘密っていうやつなんだろうか?
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