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「そして、『桜塚』を継いだとしてもその声を聞き続けることになる」
「で、でもっ、恭までそんな言い方しなくったって」
冷たい台詞を吐き続ける恭の腕を掴んで、その表情を見ようと振り向かせて――。
「宮城先生が好きなの?」
見上げた瞬間、突然の質問。
その意味を理解するのだって時間が要るほどに突然すぎる。
「――えっ? な、に言って」
「もう口をはさめるような立場じゃないけど」
宝石のような瞳を細めて見下ろす恭の表情はとても辛そうに見えるから、
詩織は息を呑んだ。
「ごめんね、出来ればシオには聞かれたくなかった」
その声が嫌に寂しくて、詩織の胸を締め付ける。
「どう、して?」
「どうしても、だよ」
少し傾けた恭の顔に暖かな照明が当たる。
見えるのはいつもと変わらない優しい笑顔。
でも、どこか淋しそうに見えるのはどうしてだろう?
「そんなんじゃ、わかんないよ」
掴んだ指にギュッと力を入れてそういったけれど、恭はにっこり笑うだけ。
それから、またベッドの縁に腰掛け、詩織の髪に手を伸ばした。
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