406人が本棚に入れています
本棚に追加
「髪、乾かしてあげる」
まだ半渇きの髪が恭の指の間をすり抜けていく。
本当はもっと話したい。
でも、
「……うん」
詩織がそう答えると、恭はとても優しい顔で微笑んだ。
そして立ち上がって詩織の手を引いて。
「広間へ行こう。もうそろそろおなかだって空いてくるんじゃない?」
恭は何でもお見通しだ。
食べたのはお昼。
今、窓の外は真っ暗で、アレから時間はかなり経ってるのがわかる。
だから小さく頷いて部屋着のままベッドから降りる。
恭の手をぎゅっと握ったまま。
「鈴花さんがアップルパイ焼いてくれたんだ。シオも好きでしょ?」
勿論好き。
甘いものがそんなに好きじゃない恭も、鈴花の焼くアップルパイは食べれる。
「それ、焼きたて?」
そう聞けば、恭はクスリと笑って部屋のドアを開ける。
「だから呼びに来たんだよ」
焼きたてのアップルパイは好き。
だけど一番好きなのは、恭と一緒に食べれるアップルパイ――。
最初のコメントを投稿しよう!