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「それ、親も知ってるの?」
「関係ねぇだろ」
簡単にそう言ってしまえる柊が素直に羨ましい。
「ってか、継ぎたくてなれるような職業でもないし、俺の場合既に兄貴が法学部に進んだしな。次男の俺は気楽なもんさ」
そうじゃない。
次男とかそう言う問題じゃなくて、きっとそれは――。
恭は一度目を伏せて、すこし温くなったコーヒーを口に運んだ。
それからゆっくりと瞼を開けて、窓から入り込む日の光を眩しそうに見上げる。
「俺も免許、取ろうかな」
「はっ? お前が?」
驚く柊に恭は「うん」と頷いて薄く笑う。
「運転なんてさせてもらええるわけねぇだろ? 『大河内家』の御曹司がさ」
本当にそうだったらいいのに。
そんなことを考えながら恭は顔に浮かぶ笑みを苦いものに変えていく。
「たまには一人で遠くに行きたいんだよ」
「あぁ、その気持ちはすっげー分かる!」
うんうんと頷く柊。
そして、
「じゃ、冬休みに入ったら一緒に願書出しに行くか」
「えっ?」
驚いて顔を上げる恭に柊はニヤリと笑う。
「自動車学校。免許取るくらい問題ねぇだろ」
簡単に言ってくれる。
だけど、
「――そうだね」
恭はそう答えて、また温いコーヒーに口をつけた。
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