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ゆっくりと沈んでいく夕日があたりをオレンジ色に染め上げる。
隣を見れば、恭の髪も同じ色に染められて――。
「なに?」
「あっ、えっと、……もしかして怒ってる?」
伺うように見上げて口にした台詞は小さい声。
だから恭はクスリと笑った。
「怒ってないよ。どうして?」
「だって――」
『宮城先生には近づかないように』
そういわれたのに何度もあの部屋に足を運んでるから。
自然と沸いてくる罪悪感。
それに気付いて恭はふわりと詩織の頭に手を置いた。
「あれはね、詩織が嫌な思いをするならって意味だから」
「えっ?」
「シオが嫌じゃないなら止めたりしないよ。それに――」
そこまで言って次の言葉が落ちてこないから詩織が見上げると、太陽に目をそばめる恭の顔がオレンジに染まる。
その顔は少し寂しそうで、とても綺麗で……。
でもそのあとは言葉が紡がれないから「なに?」と小さく聞けば、恭は少し困ったように笑った。
「忘れちゃった」
「忘れた?」
「うん、何言おうとしたか忘れた」
「……恭?」
不思議そうに名前を呼ぶと今度は自嘲気味に笑って、
「きっと大したことじゃないから」
そう言うから、詩織はまた「うん」と頷いて恭の隣を歩いた。
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