第6話

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秋は深まって推薦入試の面接の日。 「恭様っ、頑張ってくださいね!」 「恭さま、ここから祈ってますから」 自分を取り巻くそんな声に恭は苦い笑いを浮かべる。 「あのね、内部推薦なんだから。そんなに心配しないで」 そう言ってにっこり笑えば桃色吐息。 「いい加減、愛想振りまくの止めとけ」 「愛想って……。普通に答えたつもりなんだけど」 肩をすくめる恭に、柊は呆れるように息を吐いた。 「それでは受験生の方はこちらへ」 聞こえてくる声の先には専用のバス。 柊の「行くか」の声に頷いて足を進めて――。 「恭さんっ!」 突然の声にそこにいた誰もが振り返った。 恭を囲む人垣が割れていって……。 「付属の大学受けるなんて聞いてないんだけどっ!」 甲高い高飛車な声。 思わず顔を歪めたくなるのを我慢して、恭は薄く笑う。 「うん、言ってないからね」 「なっ、どうして――」 「どうして君に言わないといけないの?」 さらりと返ってくる声に荻野千鶴は開いた口をただパクパクさせた。 「――な、なんでって……」 ようやく口から出た声に恭は柔らかい笑みを。 「あぁ、心配してくれてたの? それよりも自分のことを考えたほうがいいんじゃないかな? 志望校、ギリギリでしょ」 「だ、だって――」 まだ何か言いたそうな千鶴に恭は背を向ける。 「じゃあね。俺はもう勉強みてあげられないけど頑張って」 それだけ言い残して、「行こう、柊」とバスに向かっていった。
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