第6話

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大勢の生徒に見送られていくバス。 それを詩織は3階の窓から見下ろした。 「そんな恨めしそうな顔してないで行けばよかったのに」 呆れるような美紀の声に、詩織は気に入らないのか唇を突き出す。 「あんなに沢山いたらあたしなんて気付かないよ」 「なわけ無いじゃん。周りを全部無視して、詩織に声掛けるに決まってるでしょ」 「そう、かな?」 「ニヤけた顔がキモい」 「――もうっ!」 そしてまた詩織は唇を尖らせる。 美紀からフイッと顔を背けて、机に頬杖をついて。 視線の先には綺麗に並べられた常緑樹が葉を揺らす。 その広大な敷地には今居る校舎よりも高い建物がいくつも並ぶ。 『桜学園付属大学』 「恭は、本当にここの大学でよかったのかな?」 「そんなの本人に聞きなさい」 「恭がにっこり笑ったら面接なんて絶対落ちないと思うんだよね」 「相手が女教師なら効果倍増ね」 美紀から返ってくる言葉はどれも厭味を含んでいるから、 「もういい」 詩織は不貞腐れて机に伏せた。 その姿に美紀は呆れて失笑の声を漏らす。 「いいじゃん。ここの大学なら詩織も入れるよ。そしたら、楽しいキャンパスライフ♪」 そんな言葉ですら棘を感じて。 「それって、あたしが『馬鹿』だって言いたいの?」 「捻くれてるわね。お金持ちって意味よ」 「もうっ!」 今度は頬を膨らませて机に伏せる詩織に、美紀はクスクス笑いながら「よしよし」と頭を撫でた。
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