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彼は気だるそうに開かない瞼を擦った。
「朝から何言ってんの。昨日いっぱい食べたでしょ?」
フフッと軽く笑いながら、再びキッチンへと歩き出した。
私の名前は、神崎 綾子、24歳。
愛知県にある、S病院の呼吸器科と消化器科の内科混合病棟で勤務する4年目の看護師。
未だベッドに横たわりあくびをしているのは、
結城 和馬、29歳。
自称『まれに見る天才外科医』らしいが…同じ病院の消化器科を専門とする外科医。
『天才』は本人の戯言だろうが、確かに彼の繊細なオペ手技については、外科医の中では一目置かれていると言う噂。
私達のこうした関係が始まった半年前。
内科病棟に勤務する私と外科医である彼とは、もともと接点はなかった。
しかし、昨年の冬、私が担当していた患者がイレウス(腸閉塞)を起こし手術が適応となった際、外科の主治医となったのが彼だった。
普段は外科医が訪れない私の病棟に、彼は毎日のように足を運び、その患者の担当であった私は、彼と関わる機会が多くなった。
手術が無事終了し、やがて患者は退院の日を迎えた。
彼の外科医としての怯まない迅速な対応と、少し冷たくも感じる常に冷静沈着な大人の雰囲気。
そして、不意に見せる優しい笑顔…。
彼が病棟に姿を見せなくなったことで、私は少し淋しさを感じていた。
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