卓さん~警備員は安堵する~

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「あと、もう一つお渡ししたい物が。ひょっとしたら不要な物なのかもしれないのですが。」 前置きした後、袋の中からハンカチに包んだ品物を出し、若先生の前に置く。 若先生がそのハンカチを開ける。 そしてその中身を見た途端、若先生はとても優しい表情になった。 『うわっ。』 思わず心の中で叫んでしまう。 それ位、優しい優しい表情だった。 若先生の漆黒の目が、俺を見る。 つい先ほどまであった怒りの感情は消えうせ、今はただ穏やかな光。 「ありがとう。持ってきてくれて。」 「い、いいえ。」 「私もお守りをもらっておけば良かったと後悔していた所だったんだ。これはお守りになるね。」 「はあ。」 全く意味が分からない。 だけど若先生が楽しそうに笑うから、俺もつい笑顔になってしまう。 若先生の手の平に置かれた小さなピンクの花の簪(かんざし)を見て、俺はそれを拾った日を思い出す。 あの花火大会の日、それは飲み物の陰に隠れて落ちていた。 普段だったら気にも留めずにさっさと忘れ物箱に入れてしまうけれど、何となく大事に仕舞っていた物。 自分の直感に感謝する。 あと、その簪の持ち主にも。 『あなたのお陰で、若先生の怒りが解けました。ありがとうございます。』 心の中で何度もお礼を言った。
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