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届いたメールを読んで、バイト店員は困惑した。
「店長・・・なんかすごいメール来てるんですけど。」
その声に店長が俺の脇からPCを覗き込む。そして唸った。
「高藤様じゃないか・・・。しかも長男。」
どうやら知っている客らしい。
店長はメールに書いてある注文内容を見て、汗を拭く。
「これ、何かのパーティーなんですかね?」
「うーーーーん。」
「だってありえないっすよ。この量。今朝の仕込み分、1/3は捌けてしまいますよ。」
雇われた身で言うのも何だが、この店は所謂「人気店」「ケーキの美味しいお店、東京ベスト10の常連」「行列店」なのだ。
この注文書を捌かなくっても、ショーケースはお昼過ぎにはいつも空っぽになってしまう。
今日の今日でこの注文書はないよなあ。
ありえん。
何か考え込んでいた店長が、顔を上げる。
「今日は臨時休業にする。」
「は?」
「君はこの注文書通りに品物を揃えて。」
「えっ、ちょっと本気ですか?」
焦って詰め寄る俺に、店長が止めの一言。
「高藤家はこの店の出資者。この店を作った俺の親父の恩人。ついでに俺自身もスイーツ修行の留学費出してもらった。」
「・・・。」
まじっすか。と心の中で呟く。
ちらりと時計を見ると、まだ朝の8時。
盛大にため息を付くと、俺は黙って『店長の恩人の高藤様』のメールをプリントアウトした。
◆◆◆
黙々とパッキングしていると店長がコーヒーを置いてくれた。
暇そうな店長を見て、俺はつい疑問だったことを聞いてみる。
「この高藤様と店長って昔からの知り合いなんですよね?」
「そうだけど。」
「前々からこんな(大量の注文が届く)ことってあったんですか?」
「ないねえ。」
店長は断言する。
「卓さんは定期的に注文をくれるけど、仕事上の手土産用とか、女性へのプレゼントが主だったし。」
「へえ、しゃれてますね。」
「卓さんは女性にもてるんだよ。女性が言い寄っているっていうのが正しいみたいだけどね。」
「うわっ、うらやましい。」
「そうでもないらしいよ。」
店長が何かを思い出した様に苦笑する。
「昔、まだ俺が修業時代の頃、大学生だった卓さんを街で見かけたことがあるんだけど・・・。」
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