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「これを手配してくれ。」
出社早々渡されたメモを見て、秘書の五味は少々不機嫌になった。だけどそこはプロの秘書として表情には出さず、口を開く。
「手切れ金や、女性を追い払う為としては少々値が張る反面、味気ない贈り物だと思いますが。」
高藤社長が私を見る。
この洗練されて、かつ敏腕な社長にときめくほど、私は秘書歴が短い訳でもないので冷淡に見返す。
「本命。」
「は?」
しまった本気で「は?」って言ってしまった・・・。
ごほっと咳払いをして、もう一度確認する。
「それでは、社長の大事な方へのプレゼントということでよろしいですね。」
「ああ。」
「畏まりました。手配致します。」
一礼して社長室を後にする。自分のデスクに戻って、メモをもう一度見て、すごく動揺している自分に気が付く。
「あの社長が、ついに・・・!!」
思わずガッツポーズを取ってしまう。
これで私はご令嬢からの電話をあしらってみたり、社長が『もうこれで近づかないでくれよ』という意味で送る数々のプレゼントの手配をしたり、仕方なく同伴したパーティーのトイレで難癖付けられたりしなくなるんだ!!!
「ここまで長かった・・・。社長、全然本命できないんだもの。」
『leaderz』になってから約5年。
それはもう、私のプライベートまで浸食された5年だった。全然彼氏はできないし、社内の人達も私にはちょっと距離を置いている。(私の後ろには常に社長の幻が見えるらしい。)
気が付いたら、私も28歳になっている。いい加減、彼氏は欲しい。
「よしっ。」
気合を入れると、早速プレゼントの手配を始める。
こんなにうきうきと贈り物の手配をするなんて初めてだなあと思いながら、電話機の受話器を取った。
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