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「いや、一区切りついた。食べようか」
待たせるにしろ、先に食べてもらうにしろ、二人には悪いしな。二人というより、一人と一匹か。狐だし。いやでも人型だから二人か……あれあれ?
と、ダイニングまでの途中、そんな無益な事を考えていた訳だが。
「あ、やっと来た!おそいよー!あたしお腹ぺこぺこなんだから!」
うちの胃袋担当が酷くご立腹だった。やはりあそこで中断したのは正解だったか。九紅璃は、その身体からは想像もつかぬ力を持っている。物理的な意味で。分かりやすく言うと、グーパンでコンクリートをぶち抜くくらい訳ないとでも思ってくれればいいだろうか。殴られたら普通に死ねる。
「悪い悪い」
殴られたら死んじゃうからね。
いつもの席に座り、九紅璃を一瞥。
「はい、晩ご飯」
と、並べられていく料理の数々。並べられていくというより――埋め尽くしていく、というのが適切か。何を、なんて分かりきっている事だ、勿論テーブルを、である。おーい、いくらなんでも多過ぎやしませんかね、これは。ちょっと一体どうしちゃったの鈴莉さん。
「随分と豪勢だな。どうした?」
そう訊ねたくなるのは、最早必然だろう。
「お兄ちゃんの入学祝いに決まってるじゃん」
料理を運びつつ、鈴莉は答えた。照れる。
「そっか、ありがとな」
「きたーっ!お兄ちゃんの『ありがとな』いただきましたーっ!」
「……」
前言撤回しようかな。右の拳を天高く突き上げてガッツポーズをする鈴莉。
「今、お兄ちゃんの中で私の株が絶対に上昇したよ!」
「いや、本人の前で言う事じゃないだろそれ」
上昇したのは事実なので否定はしないが。何にせよ、俺の言葉は鈴莉には届いていないようだった。
料亭の定食のような――或いは山のような料理を平らげた後、俺は自室のベッドにごろごろ寝転がっていた。
鈴莉と一緒に。ここ重要。
ベッドは普通のシングルで、俺一人寝るのに適したサイズである。要するに、超至近距離な訳よこれ。もうね、にほひとかね、すっごいの。女の子の香りっていう感じ。そこはかとないフローラル感、っていうのだろうか。妹相手に何思ってんだ俺。落ち着け、鈴莉は妹だ、落ち着け。昔はよくこうしてたんだ、同じ事だろ。ほら、少し手を伸ばせば発展途上の絶妙に柔らかな女の子の身体が――ってそうじゃなくて!
いいか、これは興奮でもなければ劣情でもない。鈴莉は妹だ、鈴莉は妹。
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