日常と非日常

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――人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、犬にて犬ならず、足手は人、頭は犬、左右に羽根生え、飛び歩くもの。 「……か、鴉天狗!?」 日本をも震撼させる災害級の大妖が、どこまでも圧倒的で絶対的な力を纏い、顕現した。 おいおいマジかよ……。 両者睨み合いが続く中、俺は内心悪態をついていた。状況は良くない――どころか最悪である。そこそこ名の知れた程度の妖怪だったらまだ良かった。“アレ”は、そうではない。インド仏教のガルーダ、中国での迦楼羅天と同一視される事もある鴉天狗は、空飛ぶ蛇――龍でさえ食い殺すという。 神格化されるレベルの絶対強者である鴉天狗だ、当然、打ち負かすなどという愚考は頭から排除しなければならない。第一の目的は、全員の保身。それも、中程度の怪我を甘受するとして、だ。 無傷で、とは思い浮かべるのもおこがましい程の能力差であるという事を理解しなければならない。勿論それは、真っ向から勝負を仕掛けた場合の話だ。返り討ちを前提として、その隙に四散し、その場を凌ぐ方法が考えられる。 が、如何せんリスクが大き過ぎるし、そんな策を鈴莉や九紅璃が許す筈がない。 まともにやり合って、封印出来る相手ではない。退けられる相手でもない。相手取れる相手でもない。 史上最高の祓魔師と謳われた、俺たちの祖父、神酒島鈴禅(みきしま・りんぜん)ならまだしも、発展途上の鈴莉と祓う事に関しては出来損ないの俺とでは、遺憾ながら無理な話だった。その策を弄する事ですら。 被害を最小限に――怪我なく、境内の損傷も軽く――済ます事の出来る策を考えるのは俺の役目だ。 一挙一動すら警戒すべきだが、最も警戒しなければならないのが、あの炎。同一視される迦楼羅天が口から吐くという迦楼羅焔。 神社の殿の方は強固な結界によって守護されているから大丈夫だろうが、境内の木々はその限りではない為間違いなく燃え散る。 景観とかその他諸々に都合が悪いので、それも避けたい。金と時間が掛かるからな。 「ここは引いてくれないか?」 下手には出ない。そもそも人語を理解しているのかどうかすら怪しいが、まあ話し掛けてみるのは損ではないだろう。 「…………」 返ってきたのは沈黙。つまり、“引かない”という事。和解も交渉も不成立。 ……最悪だった。 鴉天狗の視線を追う――衰弱しきった猫が居た。おおよそ、それが目的なのだろう。
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