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引き渡せば、俺たちは無事でいられる。
が――黒猫を一瞥。
突き出す訳にも、いかないよなあ。
それならばどうするか。そんな事、考えるでもない。
「鈴莉、適当に囮頼む」
「可愛い妹に囮頼むかフツー。まあ、いいけど」
大して気を害した様子でもなく、鈴莉は言った。こう見えて、こちら側の世界では“精霊姫”とも呼ばれる事のある鈴莉だ、その実力は折り紙付きだと言える。
うん。やっぱり頼りになるなあ。
「で、九紅璃な」
「うんなになに?あたし鈴斗の為なら張り切っちゃうよ?」
待ってましたと言わんばかりに身を乗り出し、顔を近付け訊ねる九紅璃。お前はもうちょっと緊張感というものを持ちなさい。
「その子のお守りだ」
「ええーっ!?そんなっ!?」
「で、俺が合図するから、そしたら一発デカイやつ頼むわ」
この中で、瞬間火力が一番強いのは九紅璃だ。たった一撃で戦局をひっくり返す、そういう力が彼女にはある。
俺がそう言うと、九紅璃はにかっと笑って返した。
「なーんだ、仕事あるんだったら最初からそうやって言ってよね!出番ないかと思って心配したじゃん!ま、あたしに任せて!」
胸を叩いて、自信満々に。あ、今揺れた。
「オニイチャン?」
「サーセン」
怖いっす、鈴莉さん。ほらほら笑って?お前は笑顔が一番似合うんだから。
「……ごほん」
仕切り直して、一言。
「――さあ、儀式を始めようか」
と、大胆に宣戦布告してみた訳だが、内心凄く不安だったりする。心臓バクバクだ。
鈴莉は精霊術を行使して、上手い事鴉天狗を引き付けてくれている。
九紅璃は猫を庇いながら、俺の合図を待っている。心待ちにしている。わくわくしてる。
で、俺は今、そんな二人を放って境内を駆け回っていた。
別に、自分だけ安全な場所に避難しようとかそういう事じゃない。相手は鴉天狗――この世のものならざるモノ、物理法則を無視した存在に物理法則は通用しない。俺は、その鴉天狗に通用するだけの術式の準備をしていた。ただ、普通の術式でどうこうなるものならとっくにどうにかしている。この世のものならざるモノの断片である祓魔術では些か難しいという話だ。
さて、この辺りだろうか。
「これで七枚目、と」
手元にはあと三枚の呪符。もう少しで、全て配置し終わる。俺は足を速めた。
愛するお兄ちゃんの後ろ姿が見えなくなってから数分。
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