日常と非日常

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私は、神社の景観を損ねない程度に鴉天狗の攻撃を引き付けるという離れ業を要求されていた。おい兄何だこの無理ゲーは、妹が可愛くないのだろうか。私泣くよ?泣いちゃうよ?いや冗談だけど。 せめてお兄ちゃんがシスコンであったなら、妹をこんな風に酷使したりしないだろう。もっと丁重に扱う筈だし。 要するに、期待されているのだ。だったら、頑張るしかないのだ。だって私ブラコンだもん。それに、ちゃんとやれば、お兄ちゃんの中での私の株が高騰するに違いない。『よくやったな鈴莉』『うん、頑張ったよ?』『ならご褒美あげなきゃ、な?』『やんっ、お、お兄ちゃん、私、こういうのは初めてだから、優しく……して?』みたいな感じに。……うへへへへ、ダメだ、ニヤけてくる。我ながら現金だと思う。けど、仕方ない事なのだ。だって私ブラコンだもん(二回目)。 妹は、“一見出来損ないのお兄ちゃん”に恋しちゃう乙女で、私もその多分に漏れず、お兄ちゃんが大好きで。きっと世界中の妹がみんなそうで。え、違う?私だけ?ま、まあ、本気で実兄の貞操を狙うレベルの妹力を持つ妹は全世界でも私だけかもしれないけど? 「という事で、頑張らない訳にはいかないのですよ私は!」 お兄ちゃんと私の将来の為だ、出し惜しみなど、論外である。甚だ動機が不純な気がしないでもないけど、きっとお兄ちゃんは笑って許してくれるし。 「『水精演舞』!」 実体を持たない、この世のものならざるモノが、水を象り、水を成す。 降霊術と似て非なる――召霊術。これが祓魔術『妖精演舞』の正体。精霊たちと心を通わせる事で初めてその使役権が得られる、召喚術の中でも最高位の方術。 内、『水精演舞』は、その水を意の如く扱う術。形状変化は勿論の事、状態変化だってお手の物だ。 「いっけえー!」 水流が、錐揉み状に鴉天狗へと向かう。空を“流れ上がる”。 水の本質―― 高いところから低いところへ流れ落ちる事から逸脱した所業だが、この際無視。お兄ちゃんに褒めてもらえるなら、私はこの世の理だってぶち壊せる。 その水流は、途中で氷塊へと形状(すがた)を変える。水の状態を、液体から固体へ。流動性を失う代わりに、殺傷力を得て。 化学的に言えば『水分子の振動エネルギーを、水という流体の運動エネルギーに変換する』らしいのだが、詳しい事は知らない。私、どちらかといえば文学少女だし。
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