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朝。それは一日の始まり。カーテンの隙間から射す陽光が、体内時計をリセットする。小鳥のさえずりなどは若干耳障りでもあるが、微睡む脳にはよく響く。そんな爽やかな筈の起床時間が、俺にとっては不快以外の何物でもなかった。
理由は単純。
「お兄ちゃん、早く起きてよー」
我が妹が寝ている俺の腹部に乗り、容赦無くホップしやがるからだ。やめろやめろ、俺の口から胃液がグッバイする。
決して貧相ではないが、肉付きが良いとも言えない臀部の衝撃がお腹を通じて全身へ駆け巡る。
ふにふにふにふに。ああ、柔けえ。堪らんぜよ。
「悪いな鈴莉(すずり)。今お兄ちゃんはな、過剰睡眠病でな。もっと寝てなきゃいかんのだ」
「あれ?お尻に何か固い物が……」
「よし起きた。起きたぞ」
腹の上の妹を蹴飛ばし、俺は自分でもびっくりのスピードで跳ね起きた。勃きてはない。
危ねえ危ねえ、いきなりバッドエンドを迎えるところだった。開始早々バッドエンドとか、ただのクソゲーだ。
「痛いなあもう。あ、朝ご飯出来てるよ」
最初からそう言えば、俺とて普通に起きたものを。
「んー了解」
等閑な返事をして、ベッドから這い出る。
「ほら。早く着替えてよね、お兄ちゃん」
「おー悪い悪い。今着替える」
鈴莉に急かされ、クローゼットを開ける。そして、ハンガーに掛かった真新しい制服を取り出した。
鮮やかな茶色のブレザーには、シミ一つ、誇り一つ付着していない。シワも無く、ピンピンに伸ばされた服にあしらわれたカフスがピカピカと輝いている。
そう。俺は今日から高校生だ。 入学式というなんとも七面倒なイベントをさっさと通過する為、こうして起きているという訳だった。
気持ちを新たにして、寝間着の上を脱ぎ――
「いや待て。流れが自然過ぎて放置してたが、何故お前がここに居る」
――かけて、ようやくその違和感に気付いた。
「お兄ちゃんの半裸姿を拝む為」
「よし出ていけ」
「きゃん!」
俺は鈴莉をつまみ出し、寝間着の下に手を掛ける。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないぜ」
兄の裸体を付け狙うとか、今時流行らねえよそんな妹。
「鈴斗(りんと)も大変だねえ」
そう言ったのは、身の丈が百七十センチメートルの俺程もある美少女――にケモミミを生やした何か。何か、というか妖狐だが。
「おうおう。お前も俺の苦労を分かってくれるか、九紅璃(くくり)」
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