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澄んだ海のような瑠璃色の右目に、燃える焔のような真紅色の左目を煌々と輝かせる九紅璃。
その髪は豪奢で煌びやかな明るい金色と――象徴とも言うべき狐色とが綺麗に“織り”重ねられた織物のようだった。だがそれは、調えられずに解(ほつ)れてしまっていたり、織りかけのままで放置されたのか床まで垂れていたりしてた。
「そーだよ!あたしは鈴斗の理解者なんだから、丁重に扱ってほしいな!」
「なあ九紅璃」
何か言ってるが無視だ無視。
「なにー?えっちい事ならばっちこいだよ?」
「お前も出ていきやがれ」
「きゃん!」
こんなまるで馬鹿馬鹿しい遣り取りが、俺の日常だった。
「あ、お兄ちゃん。早く座りなよ」
催促大好き鈴莉ちゃんに催促され、一階に下りた俺は指定席に腰を下ろした。いや、鈴莉が催促好きかは俺の知るところではないのだが。
「はい朝ご飯。今並べてるからもうちょっとだけ待ってね」
と、目の前に並べられていくのは、純和風の料理の数々。数々、とは言っても然程品数が多い訳でもなく、朝食としては一般的な数には類するだろうが、要するに洋食と比べて、という意味である。
「鈴莉。媚薬とか入れてないよな?」
こいつは、実の兄の料理に一服盛るという前科持ちである。あの時は本当にどうなる事かと思った。
「……やだなあ、そんな訳ないじゃん!」
「おい何だ今の間は」
「盛りましたすいません」
細い目で詰ると、鈴莉はすぐに自白した。
こんな遣り取りも、最早お馴染み、日常茶飯事である。あれ、日常的に盛られてるとか俺の貞操が危うくない?
「大丈夫、普通のもちゃんとあるから」
「二食分も作ってどうするつもりだったんだお前は」
「警察沙汰になっても私に容疑がかからないようにカモフラージュする為だけど?」
こいつ侮れねえな!え、なに、お前、「一服盛ったの私じゃありませんよー」とでもしらばっくれるつもりだったのか。やべえ、俺の妹が策士過ぎる。
とりあえずこいつの近くは危険だと判断し、俺はそそくさと家を出た。
「やっほー鈴斗君っ」
まるで待ち構えていたかのようなタイミングで俺にそう話し掛けてきたのは。
「なんだ、愛実(あいみ)か」
家も数軒隣の同い年、幼稚園、小学校、中学校――そして高校と、全て同じの所謂幼馴染にして、俺の“恩人”でもある。
「なーんかあたしの扱いがぞんざいじゃない?」
そして面倒臭い人間である。
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