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「いや、今までずっと拝まされてた幼馴染の顔を、これからの三年間も拝まにゃならんと思うとな。てかお前、俺の行く先々で出没するつもりじゃあるまいな?」
野生の愛実ちゃんが現れた、とかもう何回もやったよ。確実に鬱陶しいレベルだよ。これゲームだったら「あーまたこいつかよ」とウザがられる雑魚キャラ並だよ。どこかに売ってないの?虫除けスプレー的なやつ。
「何の事かなー」
ぴゅー、とへったくそな口笛を吹いた。包み隠すならもっと頑張って包み隠せよ。
「しかし、お前と同じ高校とはなあ」
ここまで一緒だと、むしろ感慨深いよな。なんかこいつ、大学までついてきそうなんだけど。まあ流石にそれはないか。
「鈴斗君の居るところにあたしありだからね」
「やっぱり現れてんじゃねえか!」
前言撤回、こいつストーカーだわ。えーまさかここで幼馴染のストーカー癖が露呈するとは。
「いやあ、あたしの鈴斗君への愛が為せる業ってもんよ」
そんな愛要らねー。
とまあ、そんな他愛ない(?)会話をしながら、慣れない道を歩く。
俺の家から高校までは、徒歩でおよそ十分。会話に勤しんでいれば、その距離は無いに等しい。
荘厳とまではいかないもののそこそこ立派な門をくぐると、ああ高校生になったんだなという実感がここにきてようやく湧いてくる。
「とりあえず会場に行けばいいのか、これは」
確か講堂だったよな。体育館とはまた別に存在する、正直何に使うのかよく分からない施設だ。
いざ講堂に入ってみると、どうやら席は自由らしく、生徒たちが点在していた。自由とは言え、後ろの方に座るのも決まりが悪いので、前から詰めて座る事にする。
「まだ半分くらいしか居ないね」
俺の隣に腰掛けようとする少女はそう言った。
「まあ、開会三十分前だからな。こんなもんじゃないか?」
「そだねー」
という同意の返事の後、愛実から話す事はなかったし、俺から話す事もなかった。元々そんなに口が回る方ではないし、別に会話がなくだって気まずい雰囲気になる事もない。
お互い、それを知っている故、気にする必要はなかった。
それから三十分――開会直前ともなれば、順調に賑わいを見せ始め、講堂を埋め尽くすように座る生徒の姿がよく映る。
開始時刻。ブザーが鳴り、入学式が始まった。祝辞やら校長の挨拶やら生徒代表の挨拶やらという、まったくもってありがたくない時間がだらだらと続いていく。
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