26人が本棚に入れています
本棚に追加
これ、聴いてる人なんか居るのかよ……。
口から出てくるのは、体の良い当たり障りのない言葉たち。
「よくもまあ、そんな事が口をつついて出てくるよなあ」
「大した回数聴いてる訳でもないのに、なんか聴き飽きてるよね、こういうの」
概ね同意である。
最早ただの愚痴であるが、別に誰も困らないので口外はしない。
「格式ばった挨拶といえば――」
と、式辞等をBGMに小声で会話をしていると、いつの間にやら閉式目前だった。校歌斉唱をして(勿論、校歌など今初めて聞いたが)、閉式の辞。クラス分けは講堂内の掲示板にて発表され、それから、担任の先生が各々の生徒を各々のクラスへと案内する。
ちなみに俺と愛実は同じクラス。十年目に突入である。これが幼馴染クオリティだ。どや。
着いた先は、教室棟一階、一年三組の教室。一学年五クラスなのでちょうど真ん中。
席はあらかじめ決められており、なんとか後ろの方の席を確保。ただ、窓際でないのが残念である。
「まずは入学おめでとう。私は、このクラスの担任を務める沢渡遥(さわたり・はるか)です。教師務めは拙い新人だけど、一年間よろしくね」
そう言って、ふっと微笑んだ。その際、なんとなくこちらを見ていた――ちらちらと盗み見るようにだ――のは、多分俺の気の所為だろう。
肩甲骨辺りまで伸びた、先端がウェーブの掛かったセミロングの髪。フォーマルとカジュアルを両立したようなファッションに、それを否応なしに背景へと押し退ける美貌。
見た目と名前から、女性だと断定するのは容易い。これで男だったら、なんかもう色々アレである。
だが――何かが違う。綺麗な事には変わらない、が、それを違和感へと昇華させてしまう何か。妖しい美貌に、幻術に魅せられているかのような違和感。決して自然体ではない、違和感。
俺の警戒心がそれにより引き上げられる――前に、呼ばれた声に霧散した。
「神酒島(みきしま)君?」
「え?」
「自己紹介、神酒島君の番よ。してくれるかしら?」
おっと、いっけね、考え込み過ぎたか。に、しても。
沢渡遥――と言ったか――分からない人だ。
まあでも彼女は先生で、俺は生徒だ。ここは沢渡先生、と呼ぶ事にする。
「あ、はい。名前は神酒島鈴斗。趣味は――」
言いかけてはたと気付く。俺、これといった趣味とかねえよ。なんか流れで趣味はとか言っちゃったしどうしよう。何かないか、何かな――あ。
最初のコメントを投稿しよう!