日常と非日常

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これ、聴いてる人なんか居るのかよ……。 口から出てくるのは、体の良い当たり障りのない言葉たち。 「よくもまあ、そんな事が口をつついて出てくるよなあ」 「大した回数聴いてる訳でもないのに、なんか聴き飽きてるよね、こういうの」 概ね同意である。 最早ただの愚痴であるが、別に誰も困らないので口外はしない。 「格式ばった挨拶といえば――」 と、式辞等をBGMに小声で会話をしていると、いつの間にやら閉式目前だった。校歌斉唱をして(勿論、校歌など今初めて聞いたが)、閉式の辞。クラス分けは講堂内の掲示板にて発表され、それから、担任の先生が各々の生徒を各々のクラスへと案内する。 ちなみに俺と愛実は同じクラス。十年目に突入である。これが幼馴染クオリティだ。どや。 着いた先は、教室棟一階、一年三組の教室。一学年五クラスなのでちょうど真ん中。 席はあらかじめ決められており、なんとか後ろの方の席を確保。ただ、窓際でないのが残念である。 「まずは入学おめでとう。私は、このクラスの担任を務める沢渡遥(さわたり・はるか)です。教師務めは拙い新人だけど、一年間よろしくね」 そう言って、ふっと微笑んだ。その際、なんとなくこちらを見ていた――ちらちらと盗み見るようにだ――のは、多分俺の気の所為だろう。 肩甲骨辺りまで伸びた、先端がウェーブの掛かったセミロングの髪。フォーマルとカジュアルを両立したようなファッションに、それを否応なしに背景へと押し退ける美貌。 見た目と名前から、女性だと断定するのは容易い。これで男だったら、なんかもう色々アレである。 だが――何かが違う。綺麗な事には変わらない、が、それを違和感へと昇華させてしまう何か。妖しい美貌に、幻術に魅せられているかのような違和感。決して自然体ではない、違和感。 俺の警戒心がそれにより引き上げられる――前に、呼ばれた声に霧散した。 「神酒島(みきしま)君?」 「え?」 「自己紹介、神酒島君の番よ。してくれるかしら?」 おっと、いっけね、考え込み過ぎたか。に、しても。 沢渡遥――と言ったか――分からない人だ。 まあでも彼女は先生で、俺は生徒だ。ここは沢渡先生、と呼ぶ事にする。 「あ、はい。名前は神酒島鈴斗。趣味は――」 言いかけてはたと気付く。俺、これといった趣味とかねえよ。なんか流れで趣味はとか言っちゃったしどうしよう。何かないか、何かな――あ。
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