運命的失恋

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「え…?」 晃司が違和感を感じたのだろう。間の抜けた声が隣からした。 「もしかして春紀を今日フッたのって…」 「俺です」 匠がはっきりと答えて、ありえない状況に晃司も脳内を整理できていないようだ。 「じゃあ俺らをフッた二人が付き合いだして、フラれた俺達が奇跡的にバーで出会ったってことか」 「…被害者ぶるのやめてくんない?アンタのそーゆーとこ嫌いだった」 「あぁ、すまない。でも俺はどんなお前でも好きだったよ」 晃司は元恋人の頭をポンポンと撫でるように叩いた後、お金をカウンターに置いた。 「それじゃ俺はそろそろ帰ろうかな。邪魔しちゃ悪いし」 「もう充分邪魔なんだよっ!」 元恋人の頬が赤く染まっている。 二人の関係が深かったのがよくわかった。 「じ、じゃあ俺ももう帰ろうかな…」 「気を遣わせてすまない。いつか詫びを…」 「いいよ、そんなん!」 律儀な元カレに別れを告げて、先に出ていった晃司を追った。 「待って!」 「ん?ああ、春紀」 袖を引っ張って呼び止めると、晃司が少し驚いた顔をして振り返った。 「あのさ…これから飲み直すか…ホテル、行かない?」 俺なりの告白だった。 真面目そうな晃司だから、断られても仕方ないと思っていた。 「これ以上飲まないほうがいい。…そうだな、ホテルか」 考えているようで、沈黙が流れた。 「うん、よし行こう」 何かを割り切ったのか晃司は頷くと袖を掴んでいた俺の手を握り直して、ホテル街へと連れていった。 比較的同性愛者に優しいところを選んで入って、どちらからともなくお酒味のキスをした。 一つ驚いたのは「中に出して」とお願いした時にびっくりされたことだ。 晃司の元恋人である祭さんは絶対に許さなかったらしい。 きっと今ごろ匠も祭さんに中出しを拒まれて困っていることだろう。 何はともあれ、今まで感じたことのなかった強い愛情と欲望を感じて、この人が好きだというのを心の奥底から感じていた。 たまには酔った勢いというのもいいかもしれない。 「お隣り、よろしいですか?」 「どうぞ」 「ハハ、お待たせ」 今俺には恋人がいる。 あの日ここで出会ったあの人だ。 傷心した者同士、お互いの傷を舐め合ってなんとか幸せにやっている。
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