泥沼姉弟

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栞side 彼氏の様子が最近おかしい。 まさか浮気でもしているんじゃないか。 かなり疑わしい彼は、デートはいつも私の自宅だ。 外だと浮気相手と鉢合わせしてしまうからだろうか。 いつも彼を疑いの眼差しで見てしまう。 愛情もあまり感じない。 もう私達は終わりかもしれない。 「あ、おじゃましてます」 「また来てるんだ?まあゆっくりしてけば?」 愛想のない挨拶を裕人にしたのは私の弟の棗だ。 年上に対する口調はちゃんと教えたはずなのに、彼に対してはいつもこうだ。 棗が階段を上っていく音がして、裕人は思い立ったように急に立ち上がった。 「トイレ借りるわ」 「あ、うん」 裕人side トイレに行くと嘘をついた。 そっと足音を立てないように階段を上って、目的の部屋を伺うと、ドアが開けっ放しになっていた。 そっと入るとこっちを見ずして気づいたその部屋の主が俺に声をかけた。 「毎回律儀にどうも。お姉ちゃんの彼氏さん」 嫌味ったらしく言ったそいつは、俺の彼女の弟でもあり、俺の本命の相手でもある。 まず彼女と付き合うきっかけも、ひとえに彼に近付くためであった。 彼女にはとてもじゃないが言えるようなことじゃない。 でもいずれはちゃんと伝えないといけないとわかっている。 かつての自分を憎むよ。 「今日は何て言って抜けてきたの?」 「トイレ、って」 「じゃああんまり長くは居られないね」 「確かに」 ちゃんと棗には想いを伝えた。 そして今はこっそり付き合っているのだが、如何せん本物の彼女の弟だ。 困ったことに二人きりで会うのが難しいのだ。 棗はまだ中学生だ。手すら出せない。 身体が全てではないし、愛があればそれでいいと思っている。 「ねぇ、どうせお姉ちゃんとは別れるんでしょ?じゃあさ、今から二人きりになる良い作戦があるんだけど」 悪戯っぽく笑った棗は、その作戦とやらを耳打ちしてきた。 不安はあったが頷いて応えた。 棗は実行するために一階に下りた。 そして俺の靴を持って上がってきた。 靴だけを置いて、また棗は一階へ。
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