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お店に着いてホッとした。
「下も着替えたら?冷たそう…」
「し、下!?」
「勿論裏に入ってだよ?多分弟のやつならサイズ合うと思うし」
確かに昨日のままだから下半身はすごく寒い。
風邪を引いたら今以上に世話を焼かれかねないから、着替えようと決意した。
裏には初めて入ったわけだが、なんというか店が明るいからか薄暗く感じた。
「この部屋、好きに使っていいよ。服もどうぞ」
「あ、すみません…。あれ、この服…」
「ああ、昨日着せようとしたやつだね」
「弟さんのだったんですか…」
似合わないと思ったらそういうことだったのか。
「さっき弟さんは帰ってくる様子がない、って言ってましたよね。何か事件的なことに巻き込まれてる可能性は…」
「まぁ、無きにしもあらずだけど、うちは元々貧乏で携帯なんか持ってないし、皆色んなとこに出稼ぎに出てるだけだから」
こんな立派な店があるというのに貧乏なのか。
「じゃあうちにちょっと似てますね」
「え?」
「…たった一人の家族の父ちゃんが倒れて入院しちゃって…家売って…」
「そうだったんだ?…もしかしてさっきの人達は借金取りの人?」
「えぇまぁ…。…へっくしゅんっ」
「わわ、ごめんね!すぐ出るから」
話し込んでいるうちにすっかり忘れていたが、まだ着替えていなかったんだ。
お兄さんが部屋から出て扉が閉まると、着替えながら思う。
俺は住まいがほしいわけでも服がほしいわけでもない。
明日を生きられるだけのお金があれば…、借金をちょっとずつでも返せるだけのお金が…。
お兄さんは優しい人だ。
きっとお願いすれば願いを聞いてくれるだろう。
着替え終わって部屋を出ると、お兄さんは厨房でパン生地をこねていた。
「あ、あの…」
「どうしたの?」
「…俺をお金で買ってください…!」
高額なお金を手っ取り早く稼ぐなら身体を売ればいい、と怖い人達が言っていた。
お兄さんも貧乏だって言ってたから、あまりお金の期待はできないけれど、知らない人より全然いい。
「うん、是非!さすがに一人でこの店切り盛りするの大変で、バイト雇おうと思ってたところなんだ」
「え?」
「…え?ここで働きたいんじゃないの?」
この人天然だ…!
でも確かに働けるなら時間も持て余さないし、都合がいい。
というかその考えにたどり着けなかった自分が恥ずかしい…。
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