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酒に強いわけでもないのに、バーでグラスを傾ける。
このバーは俺と同じ趣味を持った人たちがたくさんいる、いわゆるゲイバーというやつだ。
今日はとても飲みたい気分だった。
恋人と会う約束をしていたから、準備までしっかりして行ったのに、会うなり「好きな人ができたから」とフラれたのだ。
やけ酒くらいしたくなる。
ここでなら愚痴を零してもいいだろう。
「はー…」
ため息がアルコール臭い。
自己記録を大幅に更新するくらい飲んだ。
「お一人ですか?」
「…んん?」
「隣、いいですか?」
真面目そうなイケメンが声をかけてきた。
「どうぞ」
「…やけ酒ですか?」
「えぇ、まぁ…。恋人にフラれて…」
「そうなんですか。実は俺も昨日フラれたばかりなんです」
イケメンはカクテルを注文すると苦笑しながら言った。
「好きな人ができた、って言われちゃって…情けないですよね…」
「奇遇ですね。俺もですよ」
失恋話に花を咲かせているうちに、時間は超スピードで過ぎていった。
いつからか敬語もとれて仲良くなっていた。
それに比例するように、フッた恋人のことを忘れて、この人を好きになっていくような、そんな淡い感情が芽生えていった。
「あらぁいらっしゃ~い!」
ママがお客さんを迎え入れる声。いつもは気にも留めないのに、何か嫌な予感がして振り返った。
「え…」
声をあげたのは晃司の方で、入ってきた客は不運にも今日まさに俺をフッた元カレと、仲よさ気に腕を組む美少年だった。
「祭…!?」
「…うわ、晃司じゃん」
その美少年と晃司は知り合いらしい。
「なに?新しい恋人探しでもしてるの?」
「別にそういうわけじゃ…」
「まだその子口説いてないの?好みそうじゃん」
「余計なことは言わないでくれ」
テンポの良い会話…この二人もしかして…
「オレがフッてすぐ恋人探しとかムカつく!」
「お前こそ新しい恋がはかなく散ると思ってたのに成就しやがって」
「しなかったとしてもアンタには戻らないよっ!」
…やっぱり、さっき言ってた元恋人の人だ…。
その人と俺の元カレが腕を組んでいるということは…。
「…付き合うことになったの…?」
「あぁ…ほんとにすまなかった」
酔っていた頭が冴えていった。というか冷めた感じか。
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